2012年6月9日土曜日

道路交通の安全対策に関する緊急提言

平成24年6月5日
自由民主党 政務調査会
国土交通部会
文部科学部会
内閣部会
経済産業部会
厚生労働部会


本年4月23日に京都府亀岡市、27日に千葉県館山市、愛知県岡崎市、5月7日に愛知県小牧市、14日に大阪市など、登下校時の児童が犠牲となる痛ましい事故が連続して発生している。
わが国の将来を担う幼い子供達が犠牲になった事故であり、しかも、安心して登下校できるはずの通学路での事故であり、決してあってはならないことである。
また、本年4月29日には、乗客45名を乗せた高速ツアーバスが、群馬県の関越自動車道上り線藤岡ジャンクション付近において防護壁に衝突し、乗客のうち7名が死亡、38名が重軽傷を負うという大変痛ましい事故が発生した。
このような道路交通に関して看過できない事故が続発している緊急事態に鑑み、自由民主党では、国土交通部会・文部科学部会・内閣部会・経済産業部会・厚生労働部会の各部会が連携して、出来る限りのあらゆる手段を取るべく議論を重ねてきたところである。
この度、わが自由民主党は、道路交通の安全対策に関し、特に緊急的な対応を要するものとして、通学路の安全確保及び高速ツアーバスの安全を確保するために政府が講ずべき対策を、以下の通り、緊急に提言する。


【1】通学路の安全確保

今回の交通事故で命を奪われた子供達は、将来の日本を支える国の宝である。その子供たちの安全確保に万全をつくすことは、全国民の願いであり、大人達の責務である。その責務を果たし、子供達の通学路の絶対安全を目指すべく、国が先頭に立ち関係機関と連携しあらゆる手段を講じる必要がある。
そこで、通学路の絶対的安全を実現するため、下記の点を直ちに実施するよう緊急に提言する。


(1)通学路の緊急点検の実施

学校、警察、道路管理者、保護者、地域住民などが一体となって、ハードの整備とあわせて、ソフト面でも安全度を高め、通学路の安全を確保すべきこと。
このため、学校や教育委員会が中心となって、全国的な通学路の安全点検調査を実施し、利便性よりも安全性を重視した観点から、通学路の問題点や問題箇所を洗い出し、全ての学校で「通学安全マップ」を作成すべきこと。


(2)通学路の安全確保に向けたハード・ソフト対策

安全点検調査の結果、危険箇所については、交通指導取り締まり、信号機やガードレールの設置、歩道の拡幅、通学路の見直し、PTAによる安全パトロールなどの効果的な改善措置を行うこと。
地域住民が通学路に立つなど、子供を地域全体で見守る「学校安全ボランティア」(スクールガード)への参加を広く呼び掛けるとともに、「地域学校安全指導員」(スクールガード・リーダー)の育成に努めること。
東日本大震災の際に、避難場所が危険であることを子供が自ら判断し、安全な場所に自主的に避難して津波を回避した事例もあり、防災教育の重要性が改めて認識されていることから、子供に対して、危険予測能力や重要性が改めて認識されていることから、子供に対して、危険予測能力や危機回避能力を身につけさせるため、総合的な安全教育を充実すべきこと。
一方で、子供の反射能力や注意能力には限界もあり、安全教育のみでは子供を守ることができない。一連の事故は無免許や居眠り運転、あるいは「脇見」「漫然」などの安全運転義務違反などが原因であることから、ドライバーに対する啓発なども進めるべきこと。
さらに、今般の事故を受けて、無免許運転や危険運転などに対する罰則のあり方についても、改めて検討すべきこと。


(3)学校周辺における人優先空間の徹底

学校及び幼稚園・保育所などの周辺は、原則として最高時速30kmの「ゾーン30」を設定し、交通指導・取り締まりを徹底することにより、「人優先空間」の形成を図ること。
通学路の安全確保にあたっては、歩行空間のバリアフリー化、歩行空間内の無電柱化、自転車走行空間の確保などを総合的に行うこと。
さらに、人優先空間えあることをカーナビを活用してドライバーへ情報提供するとともに、自動車のスピードリミッタ―(自動速度抑制装置)の実用化を早期に図ること。


(4)国や地域における推進体制の整備

文部科学省、警察省、国土交通省などによる国レベルの推進体制を構築し、地域の取り組みを強力に支援すること。
学校、警察、道路管理者、保護者、地域住民など地域レベルの連携体制を整備すること。
通学路の安全を確保するための安全施設(ハンプ(※)や、狭さく、シケイン、段差舗装など)に関する基準化を図り、広く周知すること。


(5)通学路の安全確保に関する予算確保

地方自治体の投資的経費の「安心・安全対策」が耐震化にシフトしているなどの事情に鑑み、通学路の安全確保に関する予算についても別枠として充分に確保するとともに、確実に通学路対策に充てられるよう、一括交付金ではなく、通学路対策に使途を限定した政策目的が明確な新たな補助金を創設するなど、必要な財政的措置を講ずべきこと。

※「ハンプ」とは
車道路面に凸型舗装などを施し、その上を車が通過する際に、車の速度に応じた加速度で車を垂直に押上げる道路構造。過度な速度で通過しようとする車両に不快感が生じるため、運転者が事前に視界の中で確認して速度を低減することを狙っている。



【2】高速ツアーバスの安全確保

平成12年の貸切バスに係る規制緩和以降、貸切バスの事業者数や車両数は大幅に増加する中、平成17年頃からは旅行会社が企画・集客し、貸切バス事業者に依頼して運行するいわゆる「高速ツアーバス」が急成長を遂げてきた一方、貸切バス事業に係る需給調整規制の廃止に伴う事業者間の競争激化を背景に、運転手の労働環境が悪化し、輸送の安全への影響が懸念されていた。
今回の事故原因については、関係当局において究明が続いているが、運転手の居眠り運転や日雇い乗務、バス会社の杜撰な運行管理、旅行会社とのあいまいな責任関係等の実態が明らかになりつつある。
高速ツアーバスを巡っては、従来から様々な問題が指摘されていたにもかかわらず、政府の対応は後手に回っており、本件のような悲惨な事故が発生したことを政府は真剣に受け止めるべきである。
政府は本件事故を踏まえ、高速ツアーバスに係る事故の再発防止・利用者の信頼回復のための対策を早急に実施する必要があり、下記の点を直ちに実施するよう緊急に提言する。

(1)国土交通省は、厚生労働省と連携の上、高速ツアーバスを運行している
   全国の貸切バス事業者及び旅行業者に対して緊急重点監査を行い、その
   結果を今後の安全対策に反映させること。

(2)国土交通省は、厚生労働省と連携の上、早急に交替運転者の配置指針や
   運転時間の基準のみならず、点呼のあり方や運行管理体制を含む過労
   運転防止対策全般を見直す検討委員会を立ち上げ、早急に結論を得た上
   で、具体的措置を講ずること。

(3)国土交通省は、旅行業者等による利用者に対する貸切バス事業者の情報
   提供や、旅行業者と貸切バス事業者との取引及び責任の明確化を図るこ
   と。また、悪質な仲介業者の排除を図ること。

(4)国土交通省は、「高速ツアーバス」の「乗合バス」への移行について、
   平成25年度末とされていた移行を、前倒し実施すること。その際、
   乗合バス事業者から貸切バス事業者への「管理の受委託」については、
   厳正な運用を行うこと。
   また、移行期限後も従来の「高速ツアーバス」がなお存続し、2つの
   制度が併存する懸念があることから、移行期限後、従来の「高速ツア
   ーバス」は速やかに禁止することとし、場合によっては法改正も検討
   すること。

(5)国土交通省は、貸切バス事業に対する安全規制について参入時の安全
   規制を強化するとともに、行政の実質的なグリップ能力を高めること
   により、悪質な貸切バス事業者を排除し、悪質な法令違反に対する刑
   事告発を積極的に活用するなど、事後チェック体制の強化を図ること。
   また、警察当局は、大型二種運転免許の交付にあたっては、安全教育
   の徹底を図ること。

(6)国土交通省は、低額運賃競争の結果、良質なサービスを提供している
   貸切バス事業者の経営悪化等の事態を招かないよう、新たな貸切バス
   運賃・料金制度を導入すること。

(7)国土交通省は、旅行業者に対し、上記(6)を踏まえて貸切バス事業
   者とともに適正な運賃・料金を確保し、法令遵守や安全確保の取組が
   的確である貸切バス事業者を選定することを義務付けること。